2015年1月9日金曜日

ボツストーリー

帰宅部連盟のボツストーリーです。
ボツと言ってもネタに走ってませんよ!いたって普通の話です。
プレイしてからの方がいいと思います。
興味ある方はぜひ。


次の日の放課後――。
教室はまだ生徒でにぎわっていた。
みんなどうやら、夏休みどうするかとか成績とかのことを話し合っているみたいだ。
俺ら4人は特に話すことはあまりなく、今度の月曜日――つまり今から3日後に会うときに夏休みについて話し合いをするとのことだ。
楓はすでに教室にはいないみたいなので、俺は適当な男子に声をかけ、一緒に帰った。


家に着いた。相変わらず暑い空気が俺を出迎える。
ついでに母さんも出迎えてくれた。

「裕太、おかえり。成績はどうだったの?」

「はい」

かばんから取り出した通知表を渡す。

「ふんふん。相変わらずの“普通”っぷりね。4の体育を除いて、後はオール3」

この評定は高1、というか中学の時からまったく変わってない。
どこまでも、普通で平凡な人間なんだと教えられてる気がして、なんか嫌な気分になる。
だから、今母さんの言った“普通”という言葉にはだいぶイラっときている。

「うっさいなぁ。普通で悪かったな! 俺だって努力してんだよ!」

「別に怒ることないじゃない。何にそんなムカついてんの?」

まったく、親というのはなんでこんなにも子どもの気持ちを理解してくれないんだろう?
親っていうのは所詮肩書きなだけで、子どものことを全然わかってないし、わかろうとしないんだ。

「別に。関係ない。腹減ったから何か食べる」

「テーブルの上に用意してあるよ」

「わかった」

それだけ言い残して、俺はそそくさとテーブルへと向かった。

「裕太……」


俺は今、CDショップにいる。
半分は家にいたくなくなって、もう半分はおとといの水曜日にほしいCDが発売されたからだ。
今は家のことは忘れて、CDを探すことに集中したい。
俺は目当てのCDを探した。案外早くに見つかった。
俺が好きなアーティストのニューシングルだ。
本当だったら発売日に買ってもよかったんだが、ここのCDショップは入荷が遅いから、少し日を置いて来ないとないことがよくあるんだ。
もしかしたら、発売日に今みたいに目に付くようにあったかもしれないが。さすが、人気アーティスト。
なんにせよ、見つかってほっとした。
しかし、まだ帰りたくないのが本音。
適当にぶらぶらCDでも見て回るか。


ここはアニソンコーナーか。最近はアニソンも良曲が多いっていうな。
……あれ? あれは……。間違いないな。

「月野」

昨日の乃木といい、最近はよく知り合いに会うな。

「えっ……!? た、谷村くん!?」

持っていたCDをとっさに置き、俺に向き直る。

「いや、そんな驚かなくてもな。……アニメが好きなのか?」

「あ、ああ。今季のアニメの中でいい歌があって、それがおとといに早くも発売されたんだ。今、それを探して見つけたところだったんだ。谷村くんは?」

「俺は好きなアーティストのCDを買いに来て、それでその……家にまだ帰りたくないから適当にCDを見て回ってたんだ」

月野は疑問の表情を浮かべた。
何に対して疑問を浮かべたかは大体予想がついていた。

「家に帰りたくないって、どういうことだ? 親とけんかでもしたのか? ああ、えっと、言いたくなかったら構わないが……」

「いや、話すよ」

月野に話すだけ話したら、すっきりするかもしれない。そう思ったからだ。

「月野。外に出ないか? ここだと、周りの音とか人が気になるからさ」

「ああ、構わない」

そう言って、外に向かおうとする月野を俺は呼び止めた。

「CDを買ってからでいいよ」

「そ、そうか? なら、そうさせてもらうよ」

月野はCDを手に取り、レジへと向かった。
俺も月野と同じく、レジへと向かった。


冬だったら日が沈み始める時間だが、夏だからまだ明るい。
相変わらずの暑さだが、家を出た時よりは過ごしやすい気温になっていた。
俺は月野のほうを向いて話し始めようとした。

「月――」

“月野”と言いかけたところで、月野の言葉に遮られた。

「谷村くん、歩こう」

あ、歩く……?

「わ、わかった」

言われるがままに俺は月野と肩を並べて歩き始めた。どこに向かうでもなく――。

「俺、今日帰って母さんに通知表を渡したんだ。成績は体育が4で、後はオール3だ。俺、中学の始めからずっとそんな成績なんだ。母さん、それを見て、相変わらずの普通っぷりとか言ったんだ。俺は“普通”って言われるのが好きじゃないんだ。自分がなんのとりえのない平凡な人間に思えるからだ。それがきっかけで、母さんにイラついて、家にあまりいたくなくなったんだ。親ってなんで子どもの気持ちを理解してくれないんだろうな。自分で望んで産んだはずの子どもなんだから、ちゃんと理解しようと思わないのかな?」

「ねえ、谷村くん。聞くけど、普通の人間ってどうやって決まるんだろうな?」

「そ、それは、成績とか、運動能力とかで決まるんじゃないか?」

「谷村くん。私は普通の人間なんていないと思う。
成績が普通と言われたからって、なぜ平凡な人間だと思い込む?
成績だけでどんな人間か決まるなんてことはないと思う。
例えば、性格が普通と言ってもぴんとこないだろう?」

「ああ。普通の性格がなんなのかなんて聞かれたら、回答に困るな」

「みんなには、それぞれ個性があるんだ。それが、成績やら運動やら性格やらで現れると思うんだ。
それらを一言で“普通”となんて表せないと私は考える。だから、みんな普通ではない、そうだな……変わった人間なんだ。
……もちろん、谷村くんも」

そんな考え方もあるのか。俺はただ、成績なんていう1つのことにとらわれすぎていたのだろうか?
見方を変えたり、視野を広げて物事を見ることが大事なのかもしれないな。
それを月野はやってのけることができるんだ。すごいな……月野は。

「月野。ありがとう。おかげで、考え方が変わった気がするよ」

「そうか。私でよければいつでも話を聞くよ。谷村くんの助けになってよかった」

まだ、月野みたいにうまくできないだろうけど、いつかは……。

「じゃ、私は帰るよ。……最後に、親はちゃんと谷村くんのことを理解してくれてるよ。
まだ私は、親じゃないから言える立場じゃないかもだけどさ。
……今度こそ、じゃあね」

俺に背を向けて、月野は歩き始めた。
……ありがとう、月野。

「さて、帰るか」

俺は家に向かって歩き出した……。

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